管を附けなくてはならない。天井裏に潜り込んでも、通風孔には細い目の金網が張ってあるから、ゴム管を垂らす余裕がない。それに空気より幾分軽い気体だから、上部から送るのでは、効果が薄い。
 ガスを普通にボンベ或いはバムといわれる、鉄製の加圧容器に圧縮して入れて置けば、圧力が加っているから、室外から室内に送ることは可能だが、これとても、管を室内に入れているのでなくては、旨く目的は達せられぬ。その上に容器は厚い鉄で作ってあるから、非常に重くて、それを一人で持って、他人の家に忍び込むことは、先ず不可能である。
 残る所は液化ガスだ。之ならばデュアー壜、俗に魔法壜というのに入れて行けば、持運びは頗る簡単だ。そうして、之なら天井の通風孔から垂らせば、床の上に落ちて、或いは落ちないうちに気化して、十分目的を達することが出来る。
 只一酸化炭素の液化は非常に低温に於てのみ行われるので、(臨界温度零下一三九度沸点零下一九〇度である。)二酸化炭素と違って、普通には見られないのである。二酸化炭素即ち炭酸ガスと呼ばれている気体は、容易に液化出来るから、(臨界温度三一度、昇華点零下七九度である。)サイフォンといわれている家庭用炭酸水製造器に、拇指よりも小さいボンベに液状となって使用されている。けれども一酸化炭素も液化出来ない事はない。空気中一%を含んでも二分間で死ぬというのだから、純粋なものだったら、殆ど即座に死ぬだろう。
 所で私が液化一酸化炭素に着眼したのは何故かというのに、事件の起った時に、警察署長と現場へ行ったが、そこで、署長とそれから私も、現場の寝台附近にあった絨氈《じゅうたん》が、直径一寸ばかりボロボロになった穴が開いていたのを認めた。それは一見焼け焦げのようで、それとは違っていた。液体空気の実験を見た者は誰でも知っている通り、液体空気の甚しい低温はそれに触れたものから急速に熱を奪い去るから、皮膚に触れれば火傷《やけど》のような現象を起し、ゴム毬《まり》などは陶器のように堅くなって、叩きつけるとコナゴナになって終う。
 液化一酸化炭素はその低温の度は液体空気と大差ないから、仮りに絨氈の上に溢れたら、そこは必ずボロボロになるに違いない。当時はちっとも気がつかなかったが、ボロボロになった箇所は寝台の頭部に近く、天井の隅の通風孔の真下ではないが、極く近い下にあった。
 それからもう一つ、当
前へ 次へ
全38ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング