て、完全なものにする筈だ。
 写真版は毛沼博士の寝室にあった雑誌から引ちぎられたものに相違ないとして、さて、何人《なんぴと》がそれをやったか。もし、全然関係のない第三者がそれをやったとして、それが笠神博士の手に這入ったものなら、博士はその経路について嘘をいわれる必要は少しもない。恐らく手に這入った日に、私だけにはニコニコして、「君、とうとうあの写真が手に入りましたよ」といわれるべきである。博士が写真版を手に入れた事を私に隠して、偶然私が見つけると、嘘をいわれた所を見ると、博士が写真版を手に入れた手段については、次の二つより他には考えられない。即《すなわ》ち、
 一、博士自らが不正な手段で、写真版を入手されたか。
 二、第三者が不正の手段で入手し、その事情を博士がよく知って買いとられたか。

 一、二のいずれにしても、誰かが毛沼博士がガス中毒で死んだ夜、私が部屋を出てから、室内に忍び込んで、写真版を盗んだものに相違ないのだ。
 仮りに第三者がそれをやったとすると、その場合には次の二つが起り得る。即ち、
 一、博士に頼まれて盗みに這入ったか。
 二、他の目的で忍び込み、偶然写真版を見つけて、情を明かして、博士に売りつけたか。

 一の場合は私は否定したい。何故なら笠神博士は毛沼博士の所に目的の雑誌があるという事については、全然知られなかった。もし知っておられたら、私にその話がある筈だと思う。仮りにその事を知っておられたとしても、博士は欲しければ直接毛沼博士に頼んだであろう。そんな話も私は全然聞いていない。仮りに毛沼博士が拒絶した所で、笠神博士は人に頼んで盗ませるような事をする人では絶対にない。写真版そのものも、貴重なものには違いないが、そんな冒険《リスク》に値するほどのものではない。
 二の場合であるが、笠神博士がそんな不正な事情のあるのを承知で、買入れられるかどうか疑わしい。一の所で述べた通り、それほど値打のあるものではないのだ。情を知らないで買われたものなら、私が見つけた時に、即座に、「ああ、それは誰それが持って来て呉れましてね」とか「誰から買いましたよ」とかいわれる筈だ。
 こういう風に考えると、一、二とも起り得ないと思う。
 すると、前に戻って、第三者が手に入れてそれを博士に渡したという考えは成立しないから、勢い博士自らが直接入手せられたという結論に到達する。

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