め母親から父の遺書を渡された時に、それが何か二川家の秘密に関するものであることは直ぐ察せられたし、年代順に読んで行って、それが重明に関するものであることも大体は推察された。然し、重明が父の重行によく似ていた点や、重行が溺愛していた点から、重行の子である事は疑わなかったのだったが、何ぞ図らん、彼は全然他人の子であった。而《しか》も、乳母として、お清さんと呼び、確か重明が十か十一の年までまめ/\しく仕えていた所の女が、彼の実母であったのだ!
野村の脳裡には、蒼醒めた顔をして、言葉少なに、然し、重明を、十分愛していた母の朝子の姿と、健康そうな生々《いき/\》とした、然し、大へん優しくて、重明に対して忠実だったお清の姿とが、重なり合い、混り合った。
(重明はこの事を知っていたのだろうか)
この事が十分の秘密を保たれていた事は疑うまでもない。重明はむろん関係者の口から秘密を語られた気遣いはないであろう。然し、重明は感じはしなかったろうか。
幼少の時ならば知らず、相当の年齢に達した時には、母と仰《あお》いでいる人が、自分の生みの母親でない場合、その事は、何となく察せられるものではなかろうか。
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