んちゅう事を砂山さんに報告しました。
 砂山さんは、「ふーん」ちゅうて五分間ほど感心していましたが、「一つ首実験をして見よやないか」といいました。首実験ちゅうても、子爵家の人は十八の年から会わンのやよって、あきまへん。一番適任者は花江の照奴だす。所で、照奴に何ちゅうて和武の首実験をさしたらえゝか、大分苦心しました。結局旨く胡麻化して隙見《すきみ》をさせましたが一ぺンに違うといいまへン。よう似てるが、違う所もあるちゅうような事だす。いっそ、会うて話さしたら思うて、その事をいいましたが、之は照奴は何というても諾《き》きまへン。長うなりますから、省きますけンど、和武の鑑定の事につきましては、砂山さんと二人で、どんだけ苦労したやら知れまへン。
 で、結局、之という動かせない証拠は掴めまへンだしたが、こういう疑いが可成濃厚や、ちゅう事を子爵家に報告しました。
 すると、子爵家に男勝《おとこまさ》りの乳母がいましてな。おせいちゅうんだすが、この人が表向き和明ちゅう子の乳母になっておりますが、実は生みの親だンね、子爵家の縁故のもんで、子爵家の在亡に係る事だすし、現在の生みの子の一大事だすさかい、一生懸命だしてな、私もあれからこっち、あんな激しい気性の女子《おなご》を見た事がおまへン。このおせいさんが、和武に会うて、偽者やったらとっちめてやるちゅうて、諾《き》かはりまへン。子爵家の人もとうとう折れて、和武に会わしたンだす。
 この会見の内容はちょっとも分りまへン。が、その結果、和武は訴訟をすっかり取下げました。それと同時に、和武は東京に永住することになって、子爵家に大手を振って出入するようになりまして、子爵家の事にあれこれと口出しをするようになりましたンや。
 何や、狐に魅《つま》まれたようなお話で、お聞き下さいましたみなさんは、物足らんように思われますやろが、私も実はけったい[#「けったい」に傍点]な気がしました。けンど、私は雇われたンで、成功したちゅうて、ちゃんと報酬も貰いましたし、訴訟も片づき、万事丸う治まったンで、もう之以上何ともしようがありまへン。
 話ちゅうのは之だけで、何や解決したようなせんような、歯痒《はがゆ》い事だすけンど、小説と違うて実話だすさかい、どうもしよがおまへン。けれども、鳥渡毛色の異《ちが》った、面白味のある事件やと思いましたンで、お話し申上げたような
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