ける身分なのに、このまま熱が下らなかったらどうしよう。それよりももう一週間も病気が続いたら、薬を上げる事も出来ない。ああ涙で何にも分りゃしない。この意気地なし奴。
どうぞ一日も早く夫の病気が治り、そして赤ン坊の親が知れますように、神様お願いです。
私立探偵の手記
私は未だかつて取扱った事のない奇妙な事件を依頼せられた。依頼人は若い婦人であったが、その夫が東京駅前である未知の婦人から、その婦人が呉服店行の自動車に乗るのを助ける目的で、その婦人の子供と思われる赤ン坊を受取ったままはぐれて終って、その赤ン坊を宅へ連れ帰り、種々の事情からそのまま預り育てていると云うので、夫が大患に罹った為め、妻たるその婦人が私の事務所を訪ねて、秘密裡に母親を尋ね出す事を依頼したのである。
これは誠に奇妙な事件だ。
預った方が警察に届けなかったのは、まあ理由があるとして、預けた方が之を秘密裡に葬ったのは合点の行かぬ事だ。私は直ぐに都下の各警察署、並に同業各私立探偵社を調査したけれども、赤ン坊の捜索願と云うのは一件もなかった。
前後の事情から考えると棄子とは思われない。赤ン坊も赤ン坊
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