書《かきおき》は警察宛てだったので、すぐ開けられたの。あたしは検事さんが読んでいる内にハラハラと熱い口惜《くや》し涙を流したわ。
『親愛なる警察官諸君。私はこの第二の遺書が私の死後幾日にして開かれるかを知らない。私が改めていうまでもなく、この遺書の見出される日はすなわち私の死が自殺である事が明らかになる日で、清水に対する嫌疑の晴れる日である。私はこの遺書の発見せられる時期が、彼清水が私に加えた暴戻《ぼうれい》に対する復讐に必要にして十分なる程度に、長からずかつ短からざるを祈る』
 短過ぎたわ。先生が生きて復讐する事が出来ないで、死んで仇《あだ》をとろうとあれだけの苦心《くしん》をなすったのに、こうむざむざと見つけられるとは。あの業突張りに何故もっと大きな天罰が与えられないのでしょう。あたし涙が止めどなく出て仕方がなかったわ。皆の思いも同じでしょう。暗い顔をしてしばらくは誰も口を利くものがありません。
 でも、後はもう古田の問題だけでしょう。殺人でなかったので検事さん達はホッとして帰り支度を始めたわ。清水は嬉しいんだか何だか気抜けしたようにポカンとしていましたっけ。
 そうすると突然内野
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