ると、長持ちの中で人が唸っているようなので家政婦と二人で恐々開けると、現在のご亭主が後手に縛られて猿ぐつわをはめられていたんだって、可哀相に二昼夜程自分の家の長持ちに入っていたんだわ。半死半生になっていたのですって。可哀相に、何でも突然《いきなり》、後ろから来て縛られちゃったので、どんな奴にやられたのか少しも分からないというのです。今度こそ正真|贋《まが》いなしの無電小僧にやられたんだわ。これはほんとうでしょう。今度は無電小僧も新聞に投書しなかったから。それにしてもそれだけの事を家の人に気づかれないでよくやったものねぇ。
 その古田がここへ来たというのでしょう。皆びっくりするのは当然《あたりまえ》だわ。
『ご覧なさい』内野さんはあっけに取られている皆の顔を見ながらいったの。『こうして開けてある本がみんな大形のドイツ語の本でしょう。抽斗《ひきだし》でもなんでも大きなものばかり抜いてあるでしょう。私はかねがね先生から聞いていましたが、先生のご研究を盗もうという奴があるのです。それで先生は書き上げると、秘密の場所に隠されるのです。先生のご研究は机の上を見ても分かる通り、みんなフルスカップに書
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