も内野さんも妙な人よ。あたしに何も触っちゃいけないといって、二人で一生懸命に、手袋をはめた手でそこいら中引っ掻き回して、といっても、そりゃ丁寧なのよ。ちゃんと元の通りにして置くんですものね。口なんか少しも利かないの。窓の様子を調べたり、床の上を這い回ったり、壁を叩いて見たり、あたしこう思ったわ。きっと二人共近頃|流行《はやり》の探偵小説にかぶれて、名探偵気取りで、犯人を探そうと思って競争しているんだと。二人はよく競争するんですものね。え、あたしが居るからだって。冗談でしょう。二人ともなかなかそんな人じゃなくてよ。それであたし二人が余り探し回るから、ちょっとからかおうかと思ったけれども、場合が場合でしょう。それに二人が余り真剣なんですものね。手持ち無沙汰でもあり、気味悪くもあり部屋を出ようとすると、内野さんが、『八重ちゃん。まだ外《ほか》の人には知らさない方がいいよ』といったので、あたしは自分の部屋へ帰ったけれどもどうしてよいのやら、いても立っても耐《たま》らなかったわ。
 そのうちに下村さんが警察へ電話をかけたらしいの。八時頃だったでしょう。自動車でドヤドヤと大勢お役人さんが来たの、あ
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