かったのです。これがまああの古田の身の上に四度まで起こった怪事件の真相です。その後無電小僧は原稿の出所を先生の所と悟りました。つまりこうして研究の原稿が古田と無電小僧と先生――最後の方ですね――との三人に別れてしまったという訳です。そこで無電小僧は虎穴《こけつ》に飛び込んだのです。先生の所にいれば、隙があれば先生の持っている分を引きさらはうし、計事《はかりごと》で古田を誘《おび》き寄せて、彼を脅して原稿を出させる事も出来ます。
 で、ある日、無電小僧は古田に清水の偽手紙を書いて、先生の書斎の本箱の中に最後の分が隠してあるから、奪って来いといったのです。そうして置いて彼はそっと診察所の窓を開くようにして置いたのです。古田が来れば捕らえて、脅して原稿を吐き出させるつもりだったのです。ところが幸か不幸か、その晩ある人の術策によって、紅茶の中に麻酔剤を入れられて、前後不覚に寝かされてしまったのです。
 先生はあの晩に清水を誘き寄せて、話の最中に、電灯のスイッチを切って、部屋を真っ暗にすると共に、例の清水の指紋のついている文鎮を自分の頸に落として自殺を遂げる。清水があわてて逃げ出す拍子に私達に捕まる。とこういう計画だったらしいのです。ところが清水は来なかったのですから、無電小僧が起きてマゴマゴしようものなら、反《かえ》ってひどい眼にあったかも知れなかったのです。紅茶を飲んだのはあるいは幸いだったかも知れません。
 先生は古田が忍び込んで来たのをご存じだったのでしょう、思う存分探させて置いて、彼が出て行くのを見届けてからあの巧妙な自殺を遂げられたのです。私はあの日、内野君の頭脳には感服しました。内野君がいなかったら、私にはあの日に解決がつけられなかったかも知れません。それから内野君が脱兎《だっと》の如く天井裏へ駈け込んだ鋭さ。彼は先生の研究の最後の結果が天井裏の電気仕掛けと共に隠されている事を咄嗟《とっさ》に見破ったのです。それから驚いたのは診察室の窓の事で先手を打った事です。あれは内野君が開けて置いたのです。それを私にかぶせたのは一つには先手を打って私にいい出す機会を失わせ、一つには私を遠のけて、天井裏のどこかへ一時隠した原稿をゆるゆる取り出すつもりです。私はわざとその手に乗って、警察へ行く途中から逃げ出したように見せ、刑事と共に古田の家へ行きました。これは大変好結果でした。
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