夭折した富永
中原中也
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)攣《ちぢ》れた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)重[#「重」に「ママ」の注記]
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ほつそりと、だが骨組はしつかりしてゐた、その躯幹の上に、小さな頭が載つかつてゐた。赤い攣《ちぢ》れた髪毛が額に迫り、その下で紅と栗との軟い顔がほつとり上気してゐる。黒く澄んだ、黄楊《つげ》の葉の目が、やさしく、ただしシニカルでありたさうに折々見上げる。
彼は今日、重[#「重」に「ママ」の注記]欝なのだ。卓子《テーブル》に肘を突いたまゝ、ゆつくり煙を揚げてゐる。尤《もつと》も喫つてゐるものだけはうまさうだが。戸外は――地面は半ば乾いてあつたかい、空を風は、目標ありげにとぶ、梅雨期の或る一日だ。
そして今彼に対面する者は、彼をただ友人とのみ考へるなら、余りに肉親的な彼の温柔性に辟易《へきえき》しなければならない破目になるだらう。さしづめ、彼は教養ある「姉さん」なのだが、しかしそれにしては、ほんの少しながら物質観味の混つた、自我がのぞくのが邪魔になる。
友人の目にも、俗人の目にも、
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