o eo![#この行の「e」はすべてアクサン(´)付き]
その雨の中を漂ひながら
いつだか消えてなくなつた、あの乳白の※[#「浮」のさんずいをにくづきにした文字、37]嚢《へうなう》たち……
今や黒い冬の夜をこめ
どしやぶりの雨が降つてゐて、
わが母上の帯締めも
雨水《うすい》に流れ、潰れてしまひ、
人の情けのかずかずも
竟《つひ》に蜜柑《みかん》の色のみだつた?……
帰 郷
柱も庭も乾いてゐる
今日は好い天気だ
縁の下では蜘蛛《くも》の巣が
心細さうに揺れてゐる
山では枯木も息を吐く
あゝ今日は好い天気だ
路|傍《ばた》の草影が
あどけない愁《かなし》みをする
これが私の故里《ふるさと》だ
さやかに風も吹いてゐる
心置なく泣かれよと
年増婦《としま》の低い声もする
あゝ おまへはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云ふ
凄じき黄昏
捲き起る、風も物憂き頃ながら、
草は靡《なび》きぬ、我はみぬ、
遐《とほ》き昔の隼人《はやと》等を。
銀紙《ぎんがみ》色の竹槍の、
汀《みぎは》に沿ひて、つづきけり。
――雑魚《ざこ
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