うない。
あらゆるものは古代歴史と
花崗岩のかなたの地平の目の色。
今朝はすべてが領事館旗のもとに従順で、
私は錫《しやく》と広場と天鼓のほかのなんにも知らない。
軟体動物のしやがれ声にも気をとめないで、
紫の蹲《しやが》んだ影して公園で、乳児は口に砂を入れる。
(水色のプラットホームと
躁《はしや》ぐ少女と嘲笑《あざわら》ふヤンキイは
いやだ いやだ!)
ぽけつと[#底本では「ぽけっと」]に手を突込んで
路次を抜け、波止場に出でて
今日の日の魂に合ふ
布切屑《きれくづ》をでも探して来よう。
黄 昏
渋つた仄《ほの》暗い池の面《おもて》で、
寄り合つた蓮の葉が揺れる。
蓮の葉は、図太いので
こそこそとしか音をたてない。
音をたてると私の心が揺れる、
目が薄明るい地平線を逐《お》ふ……
黒々と山がのぞきかかるばつかりだ
――失はれたものはかへつて来ない。
なにが悲しいつたつてこれほど悲しいことはない
草の根の匂ひが静かに鼻にくる、
畑の土が石といつしよに私を見てゐる。
――竟《つひ》に私は耕やさうとは思はない!
ぢい
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