これでもない!
それでは空の歌、朝、高空に、鳴響く空の歌とでもいふのであらうか?
II
否|何《いづ》れとさへそれはいふことの出来ぬもの!
手短かに、時に説明したくなるとはいふものの、
説明なぞ出来ぬものでこそあれ、我が生は生くるに値ひするものと信ずる
それよ現実! 汚れなき幸福! あらはるものはあらはるまゝによいといふこと!
人は皆、知ると知らぬに拘《かかは》らず、そのことを希望してをり、
勝敗に心|覚《さと》き程は知るによしないものであれ、
それは誰も知る、放心の快感に似て、誰もが望み
誰もがこの世にある限り、完全には望みえないもの!
併し幸福といふものが、このやうに無私の境《さかひ》のものであり、
かの慧敏《けいびん》なる商人の、称して阿呆《あはう》といふでもあらう底のものとすれば、
めしをくはねば生きてゆかれぬ現身《うつしみ》の世は、
不公平なものであるよといはねばならぬ。
だが、それが此の世といふものなんで、
其処《そこ》に我等は生きてをり、それは任意の不公平ではなく、
それに因《よつ》て我等自身も構成されたる原理であれば、
然らば、この世に極端はないとて、一先
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