よく》の許容よ、
更《あらた》めてわれを目覚ますことなかれ!
われはや孤寂に耐へんとす、
わが腕は既に無用の有《もの》に似たり。
汝、疑ひとともに見開く眼《まなこ》よ
見開きたるまゝに暫しは動かぬ眼よ、
あゝ、己の外をあまりに信ずる心よ、
それよ思惑、汝 古く暗き空気よ、
わが裡より去れよかし去れよかし!
われはや、貧しきわが夢のほかに興ぜず
III
我が生は恐ろしい嵐のやうであつた、
其処此処《そこここ》に時々陽の光も落ちたとはいへ。
ボードレール
九歳の子供がありました
女の子供でありました
世界の空気が、彼女の有《いう》であるやうに
またそれは、凭《よ》つかかられるもののやうに
彼女は頸をかしげるのでした
私と話してゐる時に。
私は炬燵《こたつ》にあたつてゐました
彼女は畳に坐つてゐました
冬の日の、珍しくよい天気の午前
私の室《へや》には、陽がいつぱいでした
彼女が頸かしげると
彼女の耳朶《みみのは》 陽に透きました。
私を信頼しきつて、安心しきつて
かの女の心は蜜柑《みかん》の色に
そのやさしさ
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