まへの※[#曾にりっとう、17]手《そうしゆ》を月は待つてる


サーカス

幾時代かがありまして
  茶色い戦争ありました

幾時代かがありまして
  冬は疾風吹きました

幾時代かがありまして
  今夜|此処《ここ》での一《ひ》と殷盛《さか》り
    今夜此処での一と殷盛り

サーカス小屋は高い梁《はり》
  そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ

頭|倒《さか》さに手を垂れて
  汚れ木綿の屋蓋《やね》のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

それの近くの白い灯が
  安値《やす》いリボンと息を吐き

観客様はみな鰯
  咽喉《のんど》が鳴ります牡蠣殻《かきがら》と
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

屋外《やぐわい》は真ッ闇《くら》 闇《くら》の闇《くら》
夜は刧々《こふこふ》と更けまする
落下傘奴《らくかがさめ》のノスタルヂアと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん


春の夜

燻銀《いぶしぎん》なる窓枠の中になごやかに
  一枝の花、桃色の花。

月光うけて失神し
  庭《には》の土面《つちも》は附黒子《つけぼくろ》。

あゝこともなしこともなし
  樹々よはにかみ
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