りました
煙突の、煙は風に乱れ散り

火山灰掘れば氷のある如く
けざやけき※[#「景」におおがい]気《かうき》の底に青空は
冷たく沈み、しみじみと

教会堂の石段に
日向ぼつこをしてあれば
陽光《ひかり》に廻《めぐ》る花々や
物蔭に、すずろすだける虫の音《ね》や

秋の日は、からだに暖か
手や足に、ひえびえとして
此の日頃、広告気球は新宿の
空に揚りて漂へり




ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きてゐた時の苦労にみちた
あのけがらはしい肉を破つて、
しらじらと雨に洗はれ、
ヌックと出た、骨の尖《さき》。

それは光沢もない、
ただいたづらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分空を反映する。

生きてゐた時に、
これが食堂の雑踏の中に、
坐つてゐたこともある、
みつばのおしたしを食つたこともある、
と思へばなんとも可笑《をか》しい。

ホラホラ、これが僕の骨――
見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。
霊魂はあとに残つて、
また骨の処にやつて来て、
見てゐるのかしら?

故郷《ふるさと》の小川のへりに、
半ばは枯れた草に立つて、
見てゐるのは、――僕?
恰度《ちやうど》立札
前へ 次へ
全40ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中原 中也 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング