もない、私も二三度ダマされた。
横道に少し外れたが、
私は大東京の真中で、一人にされた! そしてこのことは附加へなければならないが、私の両親も兄弟も、私が別れた女と同棲してゐたことは知らないのであつた。又、私はその三月、東京で高等学校を受験して、ハネられてゐたのであつた。
女に逃げられた時、来る年の受験日は四ヶ月のむかふにあつた。父からも母からも、受験準備は出来たかと、言つて寄こすのであつた。
だが私は口惜しい儘に、毎日市内をホツツキ歩いた。朝起きるとから、――下宿には眠りに帰るばかりだつた。二三度、漢文や英語の、受験参考書を携へて出たこともあつたが、重荷となつたばかりであつた。
いよいよ私は、「口惜《くや》しき人」の生活記録にかゝる。
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街上
富永の追悼会。
下宿と其周囲
道具屋、薬屋、南山堂、神田書店、夜の読書、詩作、篠田と其婆の一件。帰省。諸井。父の死。佐藤訪問。河上。小林宅炊事。大岡、アベ六郎、スルヤの連中、河上、村井、小林。行ヱ不明。
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底本:「日本の名随筆 別巻65 家出」作品社
1996(
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