セ日《あした》は何を貰へることかと、眠れるどころの騒ぎでない。
わくわくしながら玩具《おもちや》を想ひ、
金紙包《きんがみづつ》みのボンボン想ひ、キラキラきらめく宝石類は、
しやなりしやなりと渦巻き踊り、
やがて見えなくなるかとみれば、またもやそれは現れてくる。
さて朝が来て目が覚める、直ぐさま元気で跳《は》ね起きる。
目を擦《こす》つてゐる暇もなく、口には唾《つばき》が湧くのです、
さて走つてゆく、頭はもぢやもぢや、
目玉はキヨロキヨロ、嬉しいのだもの、
小さな跣足《はだし》で床板踏んで、
両親の部屋の戸口に来ると、そをつとそをつと扉に触れる、
さて這入ります、それからそこで、御辞儀……寝巻のまんま、
接唇《ベーゼ》は頻《しき》つて繰返される、もう当然の躁ぎ方です!

     ※[#「IIII」、148−1]

あゝ! 楽しかつたことであつた、何べん思ひ出されることか……
――変り果てたる此の家《や》の有様《さま》よ!
太い薪は炉格《シユミネ》の中で、かつかかつかと燃えてゐたつけ。
家中明るい灯火は明《あか》り、
それは洩れ出て外《そと》まで明るく、
机や椅子につやつやひかり、

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