ヌつさり掛けることも?
彼等の部屋を出てゆく時に、お休みなさいを云ひながら、
その晨方《あさがた》が寒いだらうと、気の付かなかつたことでせうか、
戸締《とじ》めをしつかりすることさへも、うつかりしてゐたのでせうか?
――母の夢、それは微温の毛氈《(まうせん)》です、
柔らかい塒《ねぐら》です、其処に子供等小さくなつて、
枝に揺られる小鳥のやうに、
ほのかなねむりを眠ります!
今此の部屋は、羽なく熱なき塒《ねぐら》です。
二人の子供は寒さに慄へ、眠りもしないで怖れにわななき、
これではまるで北風が吹き込むための塒《ねぐら》です……
※[#ローマ数字3、1−13−23]
諸君は既にお分りでせう、此の子等には母親はありません。
養母《そだておや》さへない上に、父は他国にゐるのです!……
そこで婆やがこの子等の、面倒はみてゐるのです。
つまり凍つた此の家に住んでゐるのは彼等だけ……
今やこれらの幼い孤児が、嬉しい記憶を彼等の胸に
徐々に徐々にと繰り展《ひろ》げます、
恰度お祈りする時に、念珠《(じゆず)》を爪繰るやうにして。
あゝ! お年玉、貰へる朝の、なんと嬉しいことでせう。
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