ヘびツくりした奴もゐる、昨日巷で人々が
避《よ》けて通つた癲癇病者《てんかん》もゐる、
古いお弥撒《みさ》の祈祷集《おいのりぼん》に、面《つら》つツ込んでる盲者《めくら》等は
犬に連れられ来たのです。
どれもこれもが間の抜けた物欲しさうな呟きで
無限の嘆きをだらだらとエス様に訴へる
エス様は、焼絵玻璃《やきゑがらす》で黄色くなつて、高い所で夢みてござる、
痩せつぽちなる悪者や、便々腹《べんべんばら》の意地悪者《いぢわる》や
肉の臭気や織物の、黴《か》びた臭《にほ》ひも知らぬげに、
いやな身振で一杯のこの年来の狂言におかまひもなく。
さてお祈りが、美辞や麗句に花咲かせ、
真言秘密の傾向が、まことしやかな調子をとる時、
日影も知らぬ脇間《わきま》では、ごくありふれた絹の襞《(ひだ)》、
峻厳さうなる微笑《ほゝゑみ》の、お屋敷町の奥さん連《れん》、
あの肝臓の病人ばらが、――おゝ神よ!――
黄色い細いその指を、聖水盤にと浸します。
[#改ページ]
七才の詩人
母親は、宿題帖を閉ぢると、
満足して、誇らしげに立去るのであつた、
その碧い眼に、その秀でた額に、息子が
嫌悪の情を浮べ
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