アなんと、眼《め》は一斉に
てんでに丸い脣《くち》してる唱歌隊へと注がれて。さて
二十人なる唱歌隊、大声で、敬虔な讃美歌を怒鳴《どな》ります。
蝋の臭気《にほひ》を吸ひ込める麺麭の匂ひの如くにも、
なんとはや、打たれた犬と気の弱い貧乏人等が、
旦那たり我君様たる神様に、
可笑しげな、なんとも頑固な祈祷《おいのり》を捧げるのではございます。
女連《をんなれん》、滑らかな床几に坐つてまあよいことだ、
神様が、苦しめ給ふた暗い六日《むいか》のそのあとで!
彼女等あやしてをりまする、めうな綿入《わたいれ》にくるまれて
死なんばかりに泣き叫ぶ、まだいたいけな子供をば。
胸のあたりを汚してる、肉汁食《スープぐら》ひの彼女等は、
祈りするよな眼付して、祈りなんざあしませんで、
お転婆娘の一団が、いぢくりまはした帽子をかぶり、
これみよがしに振舞ふを、ジツとみつめてをりまする。
戸外には、寒気と飢餓と、而も男はぐでんぐでん。
それもよい、しかし後刻《あと》では名もない病気!
――それなのにそのまはりでは、干柿色の婆々連《ばばあれん》、
或ひは呟き、鼻声を出し、或ひはこそこそ話します。
其処に
前へ
次へ
全86ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中原 中也 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング