亡《ほろ》んでも女は決して亡びないから安心は安心だ。
 芸妓《げいぎ》、日本画、浄るり、新内《しんない》、といった風のものも政府の力で保護しない限り完全に衰微してしまう運命にありそうな気がする。
 油絵という芸術様式も、これから先き、どれ位の年月の間、われわれの世界に存在出来るものかという事々を考えて見る事がある。如何に高等にして上品な芸術であっても人間の本当の要求のなくなったものは何によらず、惜《おし》んで見てもさっさと亡びて行く傾向がある。
 大体、人間が集って、何となく相談の上芸妓を生み出し、人間が相談の上、浄るりを創《つく》り、子供を生み、南画を描き、女給を生み、油絵を発明させたように思われる。油絵が岩石の如く人間発生以前から存在していた訳ではない。
 全く、如何に花魁は女給よりも荘厳であるといっても、我々背広服の男が彼女と共に銀座を散歩する事は困難だ。今やすでに、現代の若者が祇園《ぎおん》の舞妓《まいこ》数名を連れて歩いているのを見てさえ、忠臣蔵の舞台へ会社員が迷い込んだ位の情ない不調和さを私は感じるのである。
 この芸術こそ再び得がたいものであるが故に保存すべきものだと話し
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