貪慾なる本能はあっても表現の才能なき画家の幕切れは悲しいと同時に、表現力のみあってよき神経と強き星を欠く処の画家は、商業美術と看板へその方向を転換する機会が最も多く与えられ、またその事によって世のために働き得るものであろうと思う。なおその上に近代の人間にとっての特別なる生活の重荷はまた画家の才能と星の強さと、その貪慾をどれ位いの程度に歪《ゆが》めつつあるかを思い、近代における画家の仕事のいよいよ複雑なる困難さを私は考える。
従って近代の画家は基礎的な仕事は大切と思いながらも、ついせっかち[#「せっかち」に傍点]となり、つい空腹のまま飛び出して手軽な大作を乱造せんとする傾向も認められる。大体において近代の技法が甚だせっかち[#「せっかち」に傍点]にして粗雑で、ちょっと見た時大変立派で、暫《しばら》く見ていると穴だらけのガタ普請《ぶしん》であり、味なき世界を呈しがちである事は近代技法の悪の半面でもあろう。
10 近代の生活と新技法
近代の一般の傾向を見るに活動写真はその映画館で悉《ことごと》くの封切を鑑賞し、お料理法と趣味講座と英語と体操はラジオで勉強し、野球は夏の大仕合
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