ものの三種類の画家が今日共存していると思う。
 要するに現代人の想像力を極端にまで表現しようとするもの、形と色調と力を自然から引出しつつ自然の形に変化を極端に与えようとするもの、ただ自然そのものをそのままの形に、といっているものの三種である。
 だがしかし、如何に自然を背にしてもまた自然を前にしても、要するに人は結局地球の上に立っているに過ぎない事において変りはない。所詮《しょせん》人間は地球を脱出する事が出来ない如く人の心と自然との形のデリケートなる連関によってあらゆる傾向の芸術は生れて行くのではないか。
 自然の前でも後ろでもいい、要は常に鋭き感性とその貪慾《どんよく》を以て、画家は、素晴らしい仕事をさえやってのければそれが万事である。
 昔の日本画家の例えば光琳《こうりん》宗達《そうたつ》などのあの、空想的な素晴らしい絵画の背後に、彼の自然からの忠実な、綿密な写生|帖《ちょう》がどれだけ多く存在したか、浮世絵画家の版下《はんした》絵にどれだけの紙が貼《は》り重ねられて一本の線、一人の顔が描き改められているかを知る必要がある。モデルを見ずに描いたというミケランジェロはどれだけ多くの
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