。それらは、日本的といえ、古き日本、消滅せる日本のおもかげを油絵具を以て現した処の亡霊に過ぎない。
要するに、日本人としての新らしき油絵の技法は充分なる基礎的工事の上に盛られなければならないと思う。
体力、神経、本能、表現力、等について
私は如何に近代の絵画がその形において驚くべき省略がなされ、自然に対して反逆しつつあるかの如き様子にさえ見えるまでの変形が企てられ、気随気儘《きずいきまま》の画家の心が遠慮なく画面に行われているとはいえども、その根底をなす処には必ず伝統の積み重ねられたる古き心が隠され、その心と共に確実なる写実にその基礎を置いているものである事を述べたつもりである。
日本は洋画の発祥の地ではなかったので、つい勢いその根が如何なる栄養を吸いつつ何の要求から現代となったか、即ち近代絵画の花が咲き崩《くず》れ出したかを眺める事が出来難い不便な位置にあるために、ついその花だけを眺め、何の支度《したく》もなく花だけを模造しようとする傾向があり、また、若き壮なる年配にあっては特にそれを先ず企てようとする。だがもともと、切り花の生命はどうせ幾日間の間である。
日本洋画壇の今
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