る。そしてこの世界のどちらを眺めてもその油絵の伝統を生み出さしめた処の都会もなければ建築もなく生活の名残りすらないのである。ただ見渡す限りは上海《シャンハイ》、シンガポール、バラックの連続とアメリカ風位いの雰囲気《ふんいき》である。
もし時代の如何なる影響があるにかかわらず、油絵というものに一生をゆだねる覚悟を有《も》つ以上は、先ず画家として勉強の最も初めにおいて西洋の伝統と古格とその起る処の生活に触れなければいけないと思う。そして絵画の組織を極《き》め基礎を固めなければならぬ。
私は最初に絵画の組織と基礎的工事について述べたが、それ以上の基礎の修業を怠る事は出来ないと思う。
そして新らしき心と、新らしい技法とをその正確にして深き技法の修練の上に建てなければ油絵という技法は萎《しな》びて行くであろう。
国粋とか、日本的とか、国民性とかいうべきものは油絵として確かな組織の上に現れる処の求めずして起る処の新らしき日本的であり、個性であり国民性でなくては駄目である。
油絵具とカンヴァスとを用いた処の、一夜のうちに考案せる日本みやげ的油絵は生長すべき命の玉を決して持っていないであろう
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