腹全体を塗りつぶして、あとから表を返して見て、驚く事があります。こんな時には、臍の部分だけ、あとから絵具を、アルコールで拭い取らなければなりません、地塗りとか、空とかバックなどは、最後の仕事です。樹木などは、葉の一枚一枚の点々は先きに、葉の全体の固まりは、後から塗ります。道路の点景人物は先きに、石ころも先きに道全体の色は、最後に塗りつぶさねばなりません。
時々裏返えして見て、仕上って行く絵の調子を眺め、次の仕事を考える必要もあります。あまり度々裏返えして見てばかり居ると、勢や気合いが抜けて絵が大変いじけて了うものであります。ある程度までは、度胸や胆力が必要です。
処で仕上った絵は、実物の風景とは、左右が反対になっています。丁度エッチングの場合と同じ事であります。
絵具の塗り方は、あまり厚くぬらない方がいいのです。なるべく淡く、サラサラとつけて行く方がよろしい。ガラスの透明を利用してタッチを表わす工夫をするとよいのです。或は淡い、絵具を二三回も重ねて、重く濃厚な部分や、軽く半透明な場所なども作るのです。すると、ガラス特有の味が出るものです。
顔料に就いては、油絵具を用いた場合も、粉絵具を用いた場合も、その描法に変りはありません。その効果に於て、油絵具の方は少し濃厚であります。粉末絵具は、自然粉っぽい気がして、サラサラとした感じがします。極く小品には油絵具がよく、少し大ものには粉末絵具が適している様であります。絵具ののびもよろしい。古いガラス絵などは、主として粉末絵具が使ってある様に思えます。
一枚のガラス面が、殆んど絵具で塗りつぶされた時は、絵が仕上った時であります。
出来上った絵は、よく乾かす事が必要です。乾くとその絵具のついてある面へ、その絵の調子によって、黒い紙か或は藍、或は鼠色の紙をガラスと同じ大きさに切って当てます。その紙の地色によって、絵の調子を、強めたり弱めたりする事が出来ます。
色紙を当てると、次に馬糞紙の様な厚紙を、これもガラスと同じ大きさに切ってすて、周囲を細い色紙か何かで、糊付けにして了います。こうすると、ガラスで手を傷けたりすることもなく少し位い取り落しても、こわれる事はありません。斯うして一枚の絵の仕上げを終るのであります。
画面の大きさの事
画面の大きさを考える事は、重要な事であります。油絵は八号位いから百号、
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