しかしながら日本の現代は必ずしも左様にセットを用いなくとも今や何パーセントの日本人はベッドと洋室とパジャマで寝ている。かえって私は純日本的な日本髷の裸女と背景が一〇〇号の力作で現れたらむしろ嫌らしいと思う。臥裸婦というわけのわからぬ名題によって、船底枕に友禅の掛布団、枕もとに電気スタンド、団扇、蚊やり香、しかしてあまりの暑さに臥裸婦となった光景ははなはだ生活的だから描いてみてもいいわけだが、さてこれはあまりにも日本人の伝統が第何感を刺戟せずにはおかない。あまりにもぴったりするところのものである。
 ところでソファーとか寝台は部屋の装飾であり、人に見せて多少自慢とする傾向あるものである。そこでソファーの上の人体、寝台上の臥裸婦は日本の閨房程の感じを現さないですむところに、背景としての使用に適当しているという点がある。現れていいものが現れているのだから当然であるが、日本の枕は隠しておくべきものが現れるのだからはなはだ恐縮である。
 現れたる水泳着の足をさっぱりと観賞し得るが、隠されたる裾からの一寸の白い足は驚くべきものを放射する。
 とにかく私なども私自身が洋室に起臥している関係から、裸女は必ず西洋的背景を使っているが、それもまた現代日本の生活であり、また画家としては画家の生活でもあるのだと私は考えている。そして要するに裸女の永久の腹と乳と尻とを描けばいいのである。
 とにかく現代の生活は、日本画家にも西洋画家にも描きづらいものであるらしい。したがって風俗画はことに発達しない傾向がある。もし完全にどの日本の一角を切り取っても必ず絵になるという画家があったら、それは充分なる漫画家であらねばならぬ。あるいはブルジョアがタイピストを膝に乗せて往来を行く汗だくの兵隊の行列を眺めている光景を描くかも知れないところの傾向的画家であるかも知れない。私はもし技術さえ確実であるならば、傾向的作家のうちから現代日本の風俗画のいいものが生まれるかも知れないとさえ思うことがある。



底本:「小出楢重随筆集」岩波文庫、岩波書店
   1987(昭和62)年8月17日第1刷発行
   「小出楢重全文集」五月書房
   1981(昭和56)年9月10日発行
   「油絵新技法」アトリヱ社
   1930(昭和5)年10月20日発行
底本の親本:「油絵新技法」アトリヱ社
   1930(昭和5)年
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