算が直ちにつくものとみえます。必ずたちまちにして棒折ると予言しました。M君はどうあっても成功してみせると申しました。やるなら勝手にやれということになったのであります。
資本金二百円のテンプラの出し店が、ある場末の町角で始まったのでした。もちろん狭い店だけ借りたことですから、M君は毎朝ここへ一人で通うのであります。不幸なことに妻君は元来怒っていますから、決して手伝わない上、昼めしの弁当さえ彼のために運んでやらないのでした。これは少しひどいと思います。
ところでちょっと売れたのは最初の一日だけで次の日から揚げたテンプラは積まれたまま冷めて行くのでありました。蝿が随分たかりました。
M君の店の向いが氷屋でした。M君は毎日昼になると氷水を注文し、自分で揚げたテンプラを自分でたべました。よく芸術家が自分の芸術は自分だけが味わうべきものだといって、作品を皆押入れへ積んでおくようなものであります。
あまり毎日テンプラと氷をたべたので、とうとう、M君は腸カタルを起こして寝てしまいました。ようやく全快して再び冷めたる山を築いてみましたが、とうてい沢正の芝居を五等席から覗いているぐらいの興趣すらも
前へ
次へ
全166ページ中137ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング