その真夏でさえも、私は印度洋で風邪《かぜ》を引いた事を覚えている、八月の印度洋は毎日梅雨の如く湿気と風とで陰鬱を極めるので、とうとう風邪を引いて笑われた、骨人の悲しみは冷気と陰気にある。
かような訳から私はまた夏を好く以外、すべて温そうなもの、陽気なもの、明るいもの、肥えたもの、脂肪多き女と食物、豚のカツレツ、ストーブ、火、火鉢、湯たんぽ、炬燵《こたつ》、毛織物、締め切った障子、朱、紅、の色などいうものを好みなつかしむ心|甚《はなは》だしい。
従ってその反対なもの即ちすべての陰気、骨だらけの女や万《よろず》河魚類、すし、吸物《すいもの》、さしみ、あらい、摺《す》れ枯《から》した心、日本服など頗る閉口するのである。
日本服といえば、私は決して嫌《きらい》なわけではないが、冬において私は日本服を着るのに際して、是非とも厚いシャツ二枚、ズボン下二枚を重ねて着込まなければならないのであるから悲しいのだ、大体和服の下へシャツを着用する事が既に間違っているのだ、袖口《そでぐち》から毛だらけのシャツがはみ出している事は考えただけでも堪《たま》らない、怪《け》しからず不体裁ではないか。
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