、陰鬱な湿気と冷気からパッと太陽の陽気の中へ飛び込むのだから堪《たま》らない、蝉《せみ》が鳴いて青葉が輝いて目がグラグラする、そのグラグラがとてもよくて堪らないのだ。
 何んといっても夏は私のような骨人の世界だ、だから夏を好み、夏を愛し、夏を待って躍り出す連中といえば、皆私同様骨と皮のいでたち[#「いでたち」に傍点]か、あるいはガラス、セルロイドの如く煙の如く淡く、あるいは透明半透明の軽装な奴が多いようである、私なども半透明の人間かも知れない、私の他にも幽霊、人魂、骸骨《がいこつ》、妖怪《ようかい》、蝉《せみ》、蜻蛉《とんぼ》、蜘蛛《くも》の巣、浴衣《ゆかた》、帷子、西瓜《すいか》、などいろいろと控えていて夏を楽しんでいる。
 夏は天上陽気盛んであるが、この地上は万物陰となる、冬は天上陰となるが我地上は陽気で満つるのだと、私はある老人から聞いたが、実にその通りだと思って感心している、骨人や幽霊は冬その姿をひそめ、人魂や牡丹燈籠《ぼたんどうろう》の芝居は夏に限って現われる、井戸の水は夏において冷《つめた》くなる、石炭やストーブや火鉢《ひばち》や、綿入れや、脂肪は、冬に現れ出すし井戸の水さ
前へ 次へ
全166ページ中130ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング