なるか私はよく知らないのであります。
ガラス絵の話
一
油絵はトワアルへあるいは板へ、水彩は紙へ描くものであります、ところでガラス絵はガラスへ描くものであります。しかしながら、ガラスの上へただ描くだけならば、板の上や紙の上へ描くのと別段変りのある訳ではありませんが、ガラス絵の特色は、ガラスの上へ描くのではあるがその絵の効果、即ち答は、ガラスの裏面へ現われて行くのであります。即ち裏から描いて表へ現わすという技法であります。それは丁度|吃又《どもまた》の芝居の如きものでしょう。あの又平《またへい》が、一生懸命になって手水鉢《ちょうずばち》へ裃《かみしも》をつけた自画像を描きます。あの手水鉢はガラスではありませんが、又平の誠が通じて石の裏から表へ、自画像が抜け出すのであります。
ガラス絵は、あの調子で行くものであって、即ち手水鉢の代りに、ガラスを使用するものだと思えばよいのです、そんな、ヤヤコシイ技術即ち工芸的な手法であるがために、画家でこれを試みるものがなかったのであります。早くいえば職人の仕事であります、従って製作品には工芸品として作られたものが多いのです、支那《シナ》のものでも、例えば厨子《ずし》の扉へあるいは飾箱の蓋《ふた》へ嵌込《はめこ》まれたりあるいは鏡の裏へあるいは胸飾りとして、あるいは各種の器具へ嵌込まれたものが多いのであります、その絵としての価値も、丁度|大津絵《おおつえ》とか泥絵《どろえ》とかいうものの如く、即ちゲテモノ[#「ゲテモノ」に傍点]としての面白味であって、偶然、非常に面白いものがあり、また非常に下等なものがあるのです、従ってガラス絵はすべて面白いとはいえません。
その作品をいい画家や、工芸家がやらなかったためか、随分世界的に行渡った技術であるにかかわらず、あまり重要に考えられず、有名な作者もわからず、次第に衰退してしまったようであります、それですから、どの国でいつ頃《ごろ》始まって、どう流れたものか、どう世界へ拡《ひろ》がったか、誰《だ》れが発明したものか一切不明であります、勿論《もちろん》私は歴史的な事を調べる事がうるさい性質ですからなお更《さ》らわかりません。その沿革起源等についての詳細を私も知りたいのですがこれは適当な人の研究があれば結構だと思います、あるいは近頃よほどガラス絵を鑑賞する事も一般に行われて来
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