十幾年前、私の母が在世の頃、大久保君がよく遊びに来ました。あとで母は「どうや大久保はんはいつもすっきりとして、まるでお殿様やなァ」といっていつも感嘆しました。ついでに「お前もちと見習いなはれ」と申しました。母でさえ感服するばかりの温厚なる色男だったのです。
月日が経った上に、西洋の寂莫と芸術で苦労したものか、最近はその顔に不思議な妖味を現して来ました。ことに目の位置がだんだん上へ上へとせり上がってしまって、目の下何寸といって鯛なら値うちものとなりつつあります。
君の性格は母のいう如く殿様であり君子です。君子は危きに近よらずとか申しますが、危きに内心ひそかに近よりたがる君子で、危いところには何があるかもよく御存じの君子のような気もします。とにかくものわかりのよい、親切丁寧、女性に対してものやさしきいい君子かも知れません。
[#地から1字上げ](「美術新論」昭和五年四月)
大切な雰囲気
巴里《パリ》の街頭で焼いも屋をしていたというボアイエーの絵を、近頃ある私の知人の許《もと》に十幾枚秘蔵されているのを見る事が出来た。それは童心的で、そして技巧がないようではあるがそれが
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