とかいうべきある山中に、多くの客室を持てる大寺院だった。信者は都会および全国に行き渡っていた。そして株屋、相場屋等が信者の中でも主位を占めていた。院主は金襴の法衣によって端麗であり、羽左衛門そのものであった。
 私は幾月間かの修業によって、得度の式を挙げさせてもらった。商人であったその才能と温順さが認められたものか間もなく取り立てられて院代様にまで成り上がろうとした。それには今少し学問が必要でもあったので私はK市へ下宿した。生まれて初めて洋服を着用した。もちろん金ボタンの大学の制服だった。角帽を被った。その意気な形はそのころの壮士芝居のスター秋月桂太郎を思わせた。芸者がきっと惚れるだろうとも思ってみた。間もなく私は髭を蓄えてみた。自分の幸福もいよいよ表通りへ出て来たなと思ってみた。出家してこんな明るいプログラムを行こうとは思わなかった。私は髭の出来た制服の記念撮影をして、B家その他へ送ってみた。それにつけて、R子がいたらさぞ喜んでくれたに違いないと思うと、最後に念を押した「一と思いに、な」といった声が、下宿の夜の退屈時には思い出されてくるのだ。
 私はある夜、新しい髭にチックをつけて、
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