底本では「この世へ」]出た以上はもはや魂だけのものではない。人間は五体を持った以上、人魂の如き自由自在は許されない。
 まあ、止むを得ず私は裏通りから成長したわけだが、それはどこでどう成長したのか記憶がない。この世の光景が少々意識された時にはB夫婦の家庭で、丁稚のような仕事をさされていた。

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 そんなわけから、両親を知らない私の神経からは子供らしさとか、明るさとか、甘えるとかいうことは一切引き抜かれていた。ことに甘えて帽子を買ってもらう、甘えて洋服を、甘えて玩具を、鉛筆を、ナイフをということはまったく出来なかった。そこで私は甘えずに買うより外に途はなかった。小間物屋であったその店には銭箱があった。売上げの二〇銭はその一〇銭だけを銭箱へチャラチャラと音高く投げ込んで「有難う御座います」とか「ようおいでやす」とかいっておいて残る一〇銭を懐中へ落とし込めば、相当の収益は得られたわけだった。ある時、ニッケルの光輝あるナイフとその他いろいろの玩具類が畳の上に並べられ、主人Bの前でうつむいている私をみたことがあった。私の裏町の幸福がずらりと表へ並べられたのだ。
 いつまでも
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