性を示している。私はその本堂の隙間《すきま》から覗《のぞ》いて暗い中から顔を撫《なで》る処の冷気を吸いながら、暫《しばら》くこの世を忘れる事が出来るのだが、その本尊の顔を見るとこの世が少々忘れ兼ねるのである。眉《まゆ》が長く、目尻《めじり》が長く、眼が素晴らしく大きく、瞳《ひとみ》が眼瞼《まぶた》の上まではみ出している処は、近頃の女給といっては失礼だが、何か共通せる一点を私はいつも感じて眺めているのである。
この本尊である薬師如来《やくしにょらい》は、そもそも光明《こうみょう》皇后眼病|平癒《へいゆ》祈願のためにと、ここの尼僧は説明してくれたと記憶するが、それで特に眼が大きく鋭く作られてあるのかと思う。
そしてここの絵馬にはめ[#「め」に傍点]の字の記されたものが多く、午《うま》の歳《とし》の男、め、め、め、と幾つも記されてある。
そして他に錐《きり》の幾束かが絵馬と共に奉納されてある。
私は絵もかかずにぶらぶらとこの本尊を眺め、め[#「め」に傍点]の字に村人のトラホームを考えながらつくつくぼうし[#「つくつくぼうし」に傍点]の声を聞き、冷たい本堂の冷気を吸いにしばしばここまで
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