百円とか、葡萄酒《ぶどうしゅ》三本位を片足代とか何んとかいって番頭長八が持参したりしては、全く仏壇からぬっと青い片足を出して気絶でもさせてやりたくなりはしないか。
 先ず轢《ひ》かれるなら私は貨物列車とかトラックとかもうろう[#「もうろう」に傍点]とか、少々でも車上の人格のはっきりしないものの方がましだと思う。昔は名もない者の手にかかりといって悔んだものだが、私は名もない奴の方がさっぱりとしていていいと思う。それは天から落ちた星の破片とも考えられる。従って殺されたという感じが強く働かなくてよくはないかとも思う。

   交通巡査の動的美

 私はこのごろ交通巡査というものに興味を感じている。
 それは鉄筋コンクリートの建築の、アスファルトの舗装道路の、電車の、自動車の、その他のあらゆる交通機関の、近代都市にとって欠くことのできない点景のひとつとなった。
 それは制帽をかむり、制服をつけ、そしてサァベルをさげた一人の巡査というよりも、そのゼスチュアのあざやかさと、正確さと、メカニックな点においてむしろ一個の機械としての興味を私に感じさせる。
 それはある意味からすれば機械よりも機械らしく
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