ら、虫が鳴き出した、鈴虫と松虫と朝鈴と云う奴が同時に声をそろえて鳴き出したのには驚いた。同室の人達が大喜びであった。玄海灘は大変静かだ、今朝から玄海灘を船は走っている。然しカナリの大うねりはある。めしはうまい、通じもあるし、健康はよろしいから安心してくれ。
船の中の生活は中々愉快です、よほどなれて来た。天候は今の処極く上等だ、運転士の話には、此の航海は一寸珍らしい程静かなもので、続く事だろうと云う、気休めとしても気もちはよろしい。大分船中になじみも多くなった。
玄海灘もすぎて支那海に船は入って来た。
こんな静かな航海なら、おかアさんが一ショに居てても、めったに酔わん事であろうと思う。
九月十七日に船は正確にマルセーユにつくそうだ。上海を出てからは又便りをするにも日がかかるから、大いに手紙を書いて置く次第だ。暑いのはホンコン、シンガポール間であるそうな。今は大変、内地に居るよりも風があって空気が乾いて居て涼しい、からだはサラサラしている。
二科に出す絵を忘れぬ様に、早く磯谷宛に送って置いてくれ。或はもう送ってくれたかもしれんけれども、これはとくに重子に頼んで置く。
船の中は、
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