ネったが、その代り夕方から雨だ。巴里の方が風は吹かず、冷たくても室はぬくいし、淋しくは無し、いいよ。まア此の修道院か監獄みたいな淋しいくらしも、ここ一週間でおしまいだと思うと、うれしい。
此の頃は二十五号で、室内の絵をかいているんだ。おかアさんも、三休橋も、丼池も、安堂寺町も、皆たっしゃかね。
泰弘は元気だろうね。
何か買って帰ってやろうかと思うが、全くおもちゃは、フランスにはロクなものが無いので困る。オモチャはアメリカか日本だね。セーター類は大分買った。これから又、イタリーとマルセイユとで、いろいろと買物をするつもりである。
キレ類も面白いものはナルベク買って帰るつもりだ。もうキレの面白いのが、大分たまっている。安くて、面白いもんがどっさりとある。
色々と買ったものを、大トランク二ツへギッシリつめ込んだが、買ったものを大かた忘れてしまって、中々思い出せない。
僕も早く帰って、トランクをあけて、ゆっくりと楽しんで見たいのである。早く、早く。
二月八日
今二十五号の絵を室内でかいているんだが、これを早く仕上げて、すぐイタリーへ行こうと思っている。十日過ぎに立って、二十日に帰るつもりだ。まア一週間だね。
もうグズグズしていられない、何んとなく気が忙がしくなって来た。そのかわりに、タイクツが無くなって結構だ。
二月十九日
今日はニースの有名なカーナバル祭である。午後出かけて見た。赤や青の紙のコナを顔へあびせかけられて来た。町中がおどり狂うている。大きなダシがどっさり出ている。然し日本の御大典おどりの如くきたなくはない。全く美しいもんだ。
二月十四日
マルセイユより、フランスの最後のハガキを出す。このハガキと僕とが日本へ競争で走るが、これはアメリカ経由だから、この方が少し早い事と思う。荷物は全部整頓した、あす全部船へ積み込む次第である。
底本:「小出楢重随筆集」岩波文庫、岩波書店
1987(昭和62)年8月17日第1刷発行
「小出楢重全文集」五月書房
1981(昭和56)年9月10日発行
「大切な雰囲気」昭森社
1936(昭和11)年1月6日発行
底本の親本:「大切な雰囲気」昭森社
1936(昭和11)年1月6日発行
※オリジナルの「大切な雰囲気」に収録された作品を、まず「小出楢重随筆集」からとりました。(地中海の石ころ、真夏の言葉、新秋雑想、尖端の埃、緑蔭随筆、勇しき構成美、街頭漫筆、陽気過ぎる大阪、立秋奈良風景、速度を増した新春、大切な雰囲気)
続いて、「小出楢重全文集」で不足分を補いました。(自画像、名月で眼を洗う、ファン相貌メモ、太陽の贈物、陽の下で笑う、国産玩具の自動車、舞台の顔見物、電球、交通巡査の動的美、阪神夜店歩き、裏町のソーセージ、大久保作次郎君の印象、最近の雑感二つ、挿絵の雑談、二科会随想)
「小出楢重随筆集」では抄録されている「欧洲からの手紙」は、「大切な雰囲気」に収録されたものを、「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて表記をあらため、組み入れました。
※「小出楢重随筆集」と「小出楢重全文集」に見られる疑問点への対処に当たっては、「大切な雰囲気」を参照しました。ただし「私に[#「私に」は底本では「私は」]それぼん」と「(「アトリエ」昭和四年三月)」は、「小出楢重全文集」に拠りました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:小林繁雄
校正:米田進
2002年12月17日作成
2008年9月4日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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