われの身辺にはなるべく蚊、蚤、蝿はいてくれない方が勝手ながら幸いである。

   嫌い

 嫌いといえば、私はかつて蜘蛛という随筆を書いたことがある。如何に私がこの世の中で嫌いだということはそれを読んだ人は知ってくれる筈だ。
 今や再び嫌いについて考えてみるに、やはりなんといっても私には蜘蛛ほど嫌いなものはないようである。まったく私は蜘蛛だけは胸がドキドキする位の嫌いさである。
 この嫌な蜘蛛にもたくさんの種類があるが、私の一番怖ろしく思う種類のものは、その足を拡げると直径四、五寸から五、六寸にいたるものである。胴体がドス黒くて、太くて長い足をノソリノソリと動かすところ、私はとうてい正視するに忍びないのである。情けないことにはこの蜘蛛は多く室内にいて天井や、壁や便所の中を歩き廻るのだから堪らない。いわば同居しているのだから、私にとっては生涯の苦の種だ。
 この蜘蛛は主として関西方面に多く、ことに温かい国に多いのだ。紀州や四国辺などには随分どっさりいるらしい。

 私がある夏、伊予の道後温泉で高浜虚子氏や朝日の大道鍋平君などとともに四、五日滞在したことがあった。ところがその宿にこの大蜘蛛
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