り、昼間でさえ猫の子を捨てに行くには都合のよい場所である。私の幼時トンボ釣りの修業場でもあった。その白き土塀《どべい》の中には西洋らしく、ゴムの大樹が繁《しげ》っている。その中のオークルジョスや青緑のペンキか何かが塗られた古風な木造の洋館がトンボ釣りの私の心をいたく刺戟《しげき》したものであった。その建物の内部を私は知らないが私は今も時々その辺りを散歩する時、こんな人気《ひとけ》のない家と場所が混雑せる長堀《ながぼり》橋のちょっと東に存在する奇妙さを面白く思う。そしてこの奇《く》しき家の内部を知るものはただ永久に、蜘蛛《くも》と鼠《ねずみ》とだけかも知れないわけである事を惜《おし》むのである。

 それから、私は心斎橋《しんさいばし》を散歩して二つの古めかしき時計台を眺める事が出来る。その西側のものはかなりの修繕を加えた様子だが、東側のものは殆《ほと》んど昔の俤《おもかげ》をそのままに保ちつつ人々に存在を忘れられつつ聳《そび》えている。私はこの時計台とその洋館をいつも立ち止って観賞するのである。赤い煉瓦《れんが》づくりであり二階の両側にはブロンズの人像も決して拙《まず》いものではない。
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