」]呼物であるところの空中美人大飛行というのを演じているところ。高い空中のブランコから離れてかわいい娘が次から次と、張られた網の上へ落下してくる有様は凄く憐れなものだった。私は往生要集の地獄変相図を思い出した。
 最後の一日を高松で暮した。栗林公園も桜の真盛りだった。三味線と酒と、大勢が踊っていた。ある座敷では洋服の男が六、七名、芸妓とともに円陣を作ってやっちょろまかせのよやまかしょというものを踊っていた。T夫人はそれを眺めて、男の方は宴会や宴会や[#「宴会や」は底本では「宴会」]というていつもあんなことをしているのですか、と私に詰問したが、私はさあどうですか、まさか、といってみたが、本当のことは多少わからなかった。T君も何かわけのわからない答弁を製造しているようにみえた。
 翌日再び海を渡り、退屈な山陽線によって神戸へ近づくにしたがって、私は私の神経がかなり暢びてしまっているのに気がついて来た。ほんの四、五日の旅だったが、旅は私の神経の結び目をことごとく解いてしまった。もちろん肩のこりも下がっていた。

   春の彼岸とたこめがね

 私は昔から骨と皮とで出来上っているために、冬の寒
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