くらかロマンチックであることをよく表わしていると思います。私はこの訳はりっぱに成功しているものであることを信じます。そしてあなたにゲーテをもっとたくさん訳して下さることをお勧めし、かつお願いしたく思います。あなたは小説を書かれてはどうかと思わずにはいられませんでした。
「イタリア紀行」はまだ出ないのですか。前の小説を発表してはいかがですか。有島さんが見るはずだったという小説を新潮社からでも出してはいかがですか。私は私の論文を集めて七月頃出そうと思っています。私もあなたに気に入るような作をお眼にかけることができる時がわりに近く来そうに思えてきました。私が広く豊かに、そして悠々としてくるに従って、あなたを理解してゆくことができてゆくのをうれしく思っています。そしてあなたの友情に厚いのを感謝しています。
 私はもっと清まり豊かになり、すべてのものを享《う》け入れることができ、あらゆるものをその正しき根拠と、そして限界において、承認することができるようになれることを祈っています。とにかく、二十七日の夜には京都駅のプラットホームであなたの姿を窓から求めてみましょう。そしてあなたをそこに見いだして親しい挨拶を交わすことが、十分間でもできるならばたいへんうれしく思います。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 十月)



底本:「青春の息の痕」角川文庫、角川書店
   1951(昭和26)年4月30日初版発行
   1965(昭和40)年10月30日31版発行
   1972(昭和47)年5月30日改版5版発行
底本の親本:「青春の息の痕」大東出版社
   1938(昭和13)年
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※底本では編集に当たった藤原定氏が、手紙の日付を推定して括弧付きで復元している部分がありますが、本ファイルではその著作権を考慮して削除しました。また、同氏によって付されている注についても、同じ理由から削除しています。
入力:藤原隆行
校正:土屋隆
2008年8月11日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全27ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング