た。あまりに物質的なる家庭の空気は私の傷《いた》める心にふさわしくありませんでした。私は私のこの頃の他人の幸福のためにおせっかいな心から、そしてキリストの「なんじらは世の光なり、地の塩なり」といわれた言葉などを思い出して、少しく叔母に精神的に和らげられたる家庭について語りました。私は謙遜なる心持ちでいったのだけれどあまり好感情は与えませんでした。また私はお絹さんとの交際に関してきわめて不愉快な疑いをかけられているので、いっそう気まずい心地で暮らさなければなりませんでした。それで私はもっぱら、脊髄病《せきずいびょう》で幼児よりほとんど不具者となっている私の従妹《いとこ》と語り、慰めることによって日を送りました。そのようなわけで、艶子から見舞いに来るという電報を受け取った時には福音《ふくいん》のごとく喜びました。愛する妹は天使のごとく私に来たりました。そして謙さんから美しい西洋の草花の束や、正夫さんからの絵や小説やそして二通の優しき励ましとなぐさめの手紙を受取った時は、まことに幸福な思いに満たされました。私はそれらの幸福をけっして私の受くべき当然のものとは思いません。神様の恵みと感謝いたし
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