いないからではありますまいか。私はあなたのお書きになるものでは、やはり、あの短篇集などが最近のものだけに、最も潤うているのではないかと思われます。やはり悲哀と運命とは感動の源ですね。そちらのほうにあなたの歩みの向かうことは、あなたの作の深くなる源であろうと思われます。
 私は、やはり、心のあくがれが、私を淋しい僧院のようなところに誘います。謙さんに申し送ったように、西田天香さんのところに教を乞いに行く気でいます。たぶん東京にいられるのでしょう。御住所がわかれば、早く準備して、両親に頼んで、出してもらおうと思います。姉は来年にならねば帰りません。私は、深い悲哀の味を知った、お翁さんみたいな人の慈悲に包まれたい気がします。そして私自身は、慈悲深いモンクのようなものになって、世の傷ついたたましいの一つの慰めの Refuge になりたいのです。私は忘れ得ぬ人々のさまざまな淋しい生活を思うときに、それらの人々の友としてだけでも生きていたい心地がいたします。いつでも私を愛してくださいませ。
 本田さんも不幸な人ですね、私の家に今日は来て下さるはずですけれど、この雨ではどうですかしら。
 お絹さんは
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