にしろ私は、宗教的気分の醗酵のなかに暮らしています。そして不幸な地位に忍耐して勉強しています。夜は実に淋しくなります。蘆《あし》が生えた池州や舟の乗り捨てられたすがた、湿潤な雲の流れる空、私はなつかしい燈火の下でアウグスチヌスのいう Liebe ohne Leidenschaft というようなものを感じつつひとり書物を読みます。私は教会へ行くほかはいっさい町へ出ません。
 病気はだんだんいいほうですから悦んで下さい。九月にはどうか東京の方へ出たいものだと思っています。気候が悪いからからだを大切になさい、あなたについていのります。
[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 七月六日。庄原より)

   手術

 あなたに御無沙汰していた間、私はまた不幸にとらえられていました。私は九月の上旬から穴痔《あなじ》という性質のよくない病気に苦しめられて、今日もなお苦しんでいます。その間二度手術を受けました。二度目のはこの病院で、全身麻痺の恐るべき手術でした。私は今もなおあの手術の時真裸かで、手術台の上に寝かされて、コロロホルムを嗅がされて意識を失う時の、恐るべき嫌悪《けんお》すべき心持を忘れることがで
前へ 次へ
全262ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング