宮仕えいたしますぞ。海をくぐり、山によじても食物をあさり求めあなたを養い守りますぞ。(俊寛を抱きしめる)
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第二場
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俊寛の小屋。いそに漂着《ひょうちゃく》したる丸太や竹を梁《はり》や桁《けた》とし、芦《あし》を結《むす》んで屋根を葺《ふ》き、苫《とま》の破片、藻草《もぐさ》、松葉等を掛けてわずかに雨露《あめつゆ》を避《さ》けたるのみ。すべて乏《とぼ》しく荒れ果てている。俊寛、藻草を敷き破れたる苫をかけてねている。第一場より一か月後の夜、隙間《すきま》より月光差し入る。小屋の外はあらし吹く。
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俊寛 (突然苫をおしのけ、起き上がり、あたりを見回す)魔道《まどう》に落ちているのか。妻よ。今に、今に恨《うら》みを晴らしてやるぞ! ([#「! (」は底本では「!(」]われにかえりたるごとく)あゝ夢か。(急に自分の地位をはっきりと意識したるごとく)あゝわしはどうして死にきれないのだ。すでに三七日も飲食《おんじき》を断《た》っているのに! わしは干死《ひじ》にすることもできないのか。わしの生命《いのち》の根は執念《しゅうねん》深く断ちきれない。このあさましいわしの業《ごう》をいつまでもさらさせようとするのか。食を断っても断っても死にきれぬ蛇《へび》のように。わしの力はわしの四肢《しし》からもう失せたのにわしの根はいつまでも死にきらないのか。運命はあくまでもわしを責《せ》めさいなもうとするのか。わしは死にたい。死にたい。ただ恨《うら》みだけがわしの生命を燃《も》やしているのだ。わしは死んでただわしの恨みだけが生きているのだ。わしは恨みそのものだ。わしは生きながらの怨霊《おんりょう》だ。(耳をそばだてる)あゝ風の音か。わしの子どもが泣いているような気がしたのだが。
有王 (登場、魚と荒布《あらめ》とを持っている)ただいま帰りました。
俊寛 (なお何者かのあとを追うごとく)あゝ帰ったか。
有王 ご気分はいかがでございます。(俊寛のそばによる)
俊寛 わしの根はますますはっきりするばかりだ、わしの身体《からだ》は日に日に衰《おとろ》えてゆくのだが。
有王 (つくづくと俊寛を見る)ご主人様、なにとぞ私の申すことをお聞きください。今夜は心を静めて何か召し上が
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