わり]
[#ここから5字下げ]
波の音、松風の音、その間を時々山の鳴動。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
第三幕
第一場
[#ここから5字下げ]
舞台、第一幕に同じ。岩多き荒涼《こうりょう》たる浜辺《はまべ》、第二幕より七年後の晩秋。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
俊寛 (やせ衰《おとろ》え、髪《かみ》をぼうぼうとのばし、ぼろぼろに破れ、風雨のために縞目《しまめ》もわからずなりたる着物をきている。岩かどに立ちて、嘆息しつつ海を眺める)あゝだめだ。まただまされた。何百度だまされればいいのだ。康頼めがなまじいに迎えによこすと言ったばかりに! 苦しまぎれにいいかげんなことをいったのだ。その場限りの慰《なぐさ》めだ。それが何のあてになるものか。それをお前は知ってるくせに。愚《おろ》か者! 未練《みれん》なわしよ。あゝわしはもう自分に頼る気もなくなった。どうしてわしは死んでしまわないのだ。この岩かどに頭を打ちつければ、この悪夢のようなわしの生涯《しょうがい》は閉じるのではないか。あゝ想像もつかない恐ろしい七年が経った。わしはどうして生きてくることができたのだろう。四季の移り変わりと月の盈虧《みちかけ》がなかったら、どうして月日さえ数えることができたろう。何よりも苦しいのは食物がないことだ。わしはいつも餓鬼《がき》のように飢《う》えていなければならない。もう弓を引く力もなくなった。水くぐる海士《あま》のすべも知らない。(ふと岩陰《いわかげ》を見る)見つけたぞ! (岩陰《いわかげ》に飛びゆき)待て。かにめ。(あわて捕《とら》えんとす)えゝ逃げおったわい。(がっかりする。考える)あゝわしは餓鬼《がき》だ。少しの食物を得るためにどんなにあさましいことをしなければならないか。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから5字下げ]
この時岩かどにとまりいたる兀鷹《はげたか》空を舞い、矢のごとく海面《うみづら》に降《お》り魚を捕えたちさる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
俊寛 あゝわしはあの兀鷹がうらやましいわい。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから5字下げ]
漁夫《ぎょふ》一登場、※[#「土へん+累」、311−6]《びく》を岩の上に置き網《あみ》を打つ。
[#ここで字下げ
前へ
次へ
全54ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング