だかれますまいか。
左衛門 お断わりします。
良寛 縁先でもよろしゅうございますが。
左衛門 くどい人だな。
慈円 お師匠様どういたしましょう。
親鸞 私がも一度頼んでみましょう。(左衛門に)御迷惑ではございましょうが、難儀をいたしておりますで、御縁とおぼしめして一夜だけ泊めていただかれませんでしょうか。
左衛門 お前さんは師匠様だな。(冷笑する)なるほどありがたそうな顔をしておいでなさるよ。だがあいにくわしは坊さんがきらいでしてな。虫が好きませんのでな。
親鸞 おいやなのはわかりました。だがあわれんでお泊めくださいまし。
左衛門 お前さんがたをあわれむなんて。どういたしまして。いちばんおうらやましい御身分でいらっしゃいますよ。この世では皆に尊ばれて死ぬれば極楽へ行かれますでな。あなたがたは善《よ》い事しかなさらないそうだでな。わしは悪い事しかしませんでな。どうも肌《はだ》が合いませんよ。
親鸞 いいえ。悪い事しかしないのは私の事でございます。
左衛門 (親鸞の言葉には耳を傾けず)あなたがたのなさる説教というものはありがたいものですな。おかげで世間に悪人がなくなりますよ。喜捨、供養をす
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