うのだい。
お兼 松若のおとうさんは殺生《せっしょう》をしたり百姓をいじめる悪いやつだっていうのですよ。宅《うち》のおとうさんをいじめるから、お前をおれがいじめてやると言って雪をぶっかけたり、道ばたから押し落としたりするそうですよ。
左衛門 そんな事をするかい。悪いやつだ。お師匠様に言いつけてやれ。
お兼 そうすると帰り道によけいにひどい目に会わせるそうですよ。
左衛門 (怒る)吉也《きちや》の悪《わる》め。よし、そんな事をするならおれに考えがある。あすにも吉助《きちすけ》の宅に行ってウンという目にあわせてやる。
お兼 そのような手荒な事をしたのではかえって松若のためにもなりませんわ。それよりもあなたがもっと気を静めて百姓などをいたわってやってくださればよいのですわ。無理をしないであなたの生まれつきの性質のとおりにしてくださればよいのではありませんか。
左衛門 それでは見る見る家がつぶれるよ。こっちが優しく出れば、向こうも、正直に応じるというように世の中の人間はできていないのだ。あくまで優しく出る気ならさっきも言ったようにいやなやつの門口に立つ覚悟でなくてはできないのだ。お前にその覚悟
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